1996 (平成8) コスモ信用組合事件
1996年5月、経営破綻したコスモ信用組合の泰道三八元理事長が背任容疑で東京地検特捜部に逮捕される。泰道が指示して乱脈融資をやらせたとの容疑だった。泰道は久保利の開成時代の同級生だったことから、コスモ信用組合の顧問を務めていた中で起きた事件だった。
泰道は、刑事専門の弁護士に依頼。逮捕直後から黙秘を貫いた。罪を認めれば保釈される。しかし泰道は、自分は悪いことをしていないという信念があったのだ。結局、逮捕後、小菅の東京拘置所に311日間拘置され続けた。
バブル崩壊後、経営破綻した金融機関トップは次々と逮捕されていった。日本長期信用銀行や日本債権信用銀行も然りである。最高裁まで10年闘い、逆転無罪を勝ち取っている。泰道も無罪を主張して裁判を闘った。しかし懲役3年6ヶ月の実刑判決を受け、刑に服している。
この際、久保利は、コスモ信用組合のグループ会社への救済融資に伴う背任事件で、検察から狙われることになる。「新会社を利用したコスモグループ各社の救済計画」を久保利が作り上げたと決めつけられたのだ。
実際、泰道は無罪だと思っていた久保利は、救済計画を立ててはいなかった。検察から調書を取りたいとの申し出があったのだが、犯罪を冒しているわけでもないのに、検察に出頭して調書を取られるなど、許しがたいと思った。
そこで、「裁判官面前調書なら」と、同意する。裁判所で証人として裁判官から尋問を受けた。しかし、この調書は検察官から提出されることはなかった。
調書の日付は1996年5月23日。泰道が逮捕されたすぐ後のことだ。明らかに特捜部は、久保利を共犯者に仕立てようとしていたのだ。当時、日経ビジネスの人気弁護士ランキング1位に選ばれていた久保利は、そんなところからも狙われていた。
リクルート事件の際に、リクルートコスモス社から依頼され、当時、事務所にいた弁護士と共に、取り調べを受けていた役員や社員にアドバイスを行っていたことがある。それを知った特捜部から「あなたをいつでも逮捕することができるんだ」と言われたことがあった。
ヤクザや総会屋だけでなく、時には、依頼者の側に立ち、国家権力と対峙する。弁護士とはそういう仕事である。